第一章 威舞~EVE~

 <CONTENTS>

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第一章 威舞〜EVE〜
Episode.01「最後の日常」
Episode.02「ファースト・ドライブ」
Episode.03「白銀の転校生」
Episode.04「使命と義務」
Episode.05「偽られている日々」
Episode.06「心の孤独」
Episode.07「感動」
Episode.08「プロジェクト・ワン」
Episode.09「決意」
Episode.10「出撃・エクストレイヴァー」
Episode.11「アダム」
Episode.12「イヴ」

第二章 破滅〜CATASTROPHE〜

第三章 準備中

第四章 準備中

 
 
Episode.01「最後の日常」
 
4月の中頃に入ったかという時期。俺達はいつものように、空き教室に集まった。
そしていつものように、手にした楽器に、マイクに力を込める。
エイジはマイクに。
夕莉はベースに。
そして俺はギターに。
今日も、俺達の気持ちが鳴り響くのだ。
「この広い宇宙を〜 さ迷い歩く迷子達〜」
エイジはマイクに向かって魂の声を叫ぶ。俺は負けじとギターをかき鳴らした。だが・・・
エイジが歌うのを止めた。
俺と夕莉も、奏でる事をやめる。
エイジがこの後何を言おうとしているのか? そんな事は俺には分かっていた。
「足りねーな! やっぱりよぉ」
「あたしもそう思う」
俺達三人は、振り返る。そこにはポツンと持ち主のいないドラムが置かれていた。
「なんかパンチが足りねぇよな、そう思うだろ? 夕莉?」
「うん! 帰ってこないかなぁ。舞先輩」
ドラムは去年卒業した藍澤舞という先輩の担当だったのだ。“モイモイ”という愛称で親しまれ、とても良い先輩だったのだが・・・俺達は学生。いつかは卒業する日がやってくるものだ。彼女は去っていった。今後の事を心配して、自分の愛用していたドラムを残して・・・。高かったろうに、最後まで俺達の事を気遣っている。そういう先輩だった。
 
ちなみに俺達から見てエイジも先輩になる。
 
 
完全に夕莉も俺もエイジに対してタメ語であるが、彼は『それでもよい。寧ろタメ語にしてくれ!』と言った。エイジは敬語を使われることが嫌らしい。気がねない仲間でありたいそうだ。
「呼べないかな? 今度のライヴだけでもさ」
と言う訳で夕莉はエイジにタメ語で進言する。俺はそれに苦言を呈した。
「やめといた方がいいんじゃないか? 卒業して、今はアナウンサー志望だろう? 『頑張ってください』って送り出した俺達が、足引っ張っちゃ迷惑だろう?」
「そうかもしれないけど・・・」
このままでは、まずい。とは俺も思ってはいるのだが・・・
「なんかいい案ないのか」
エイジは俺の方を向いた。
「俺か?」
俺は考えた。でもいい案が思いつくはずもない。というか、そんな簡単に思いつくならこんな状況とっくに打破している。
「なんかないのかよー。“刃の少年”!」
「やめろよ、その呼び方」
俺はたまに“刃の少年”と呼ばれることがある。名前の由来は傷跡だった。顔に傷があるのだ。それも、どこぞの長編小説に出てくる魔法使いの少年のようなレベルではない。顔の左額から右頬までかなり長い傷跡がある。しかも中には微細ながらガラスの破片が残っているそうだ。
・・・考えると怖いが、現在の外科手術でもどうしようもないので敢えてこのままにしている。
その傷跡から、俺は“刃の少年”と呼ばれるようになった。
「じゃあ、なんて呼ばれたい?“キレたナイフ”とか?」
茶化すような笑いを浮かべながら、エイジ先輩は俺を見つめた。
「これナイフの傷じゃないし。俺はナイフじゃない」
「ガラス、だっけか?」
「ああ」
「じゃあ、“ガラスの少年”でどうだ?」
「そのネタ、もう何回目だと思ってるだよ。この傷のせいで俺がどんだけ苦労してるか・・・」
俺は顔を俯かせた。
「じょーだんだよ。じょーだん!」
笑うエイジ。
 
すると、今度は夕莉が絡んできた。
 
「確かに、変な武勇伝いっぱいできちゃったからね。その傷のせいで。なんだっけ?」
「あぁ、幼稚園の頃は悪の組織の幹部で、小学校はなぜかヴォルデモートで、中学校の頃は札付きの不良と言われてきたからな」
「パッと見、目つき最悪だもんね」
「まったく・・・将来まともな職業につけるか不安だよ」
俺には両親がいない。幼い頃交通事故で死んだ。以来、両親が残した遺産と、隣に住んでいる夕莉の両親の支援でここまで育ってきた。遺産といっても大した額じゃない。幸い、家のローンは全額払ってはいるが、食費や学費でもう殆どない。今はバイトもしている。が、レジ打ちではなく・・・奥で皿洗い。この顔の傷のせいで、まともな職種につけない可能性が、今の時点でかなり高かった。俺は高校二年の時点で、将来に果てしない不安を感じている。
 
チャイムの音だ。
教室の外を見ると、茜色の空が広がっていた。
「結局、今日もロクな練習は出来なかった・・・か」
呟くエイジ。
「まぁ、510日のライヴに向けてドラム抜きで練習して、新しいバンドメンバーをそこで引き抜くしかない! のよね」
締める夕莉。結局この結論だった。510日のライヴは新入生歓迎と同時に、新入部員を募集する為のCMを兼ねたものである。俺達だけじゃなく“新入生歓迎集会”の一貫として行われる。他にも沢山の文化部が参加する。演劇部や茶花道部も新入部員の獲得に必死だ。場合によっては剣道部や柔道部の演武もある。だから、俺達軽音部が歌える曲は一曲のみ。一発勝負。満足いくものを聞かせたい。よってドラムが欲しい・・・この堂々めぐりだった。今日は412日。すでに一ヶ月を切っている。時間はあるようで、ない。
俺はエイジと夕莉に言う。
「やるしかないだろ、俺達ドリーマーズで」
「そうだな、シュウ!!」
俺達は決意を新たに、今日の練習を終えた。
 
俺、夜霧シュウはこうした平穏だが・・・楽しい日々を送っていた。
バンドの仲間たちと過ごす、普通の学園生活を。
 
・・・この日までは。
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 Episode.02「ファースト・ドライブ」
 
その日の帰り道。俺はある公園に立ち寄った。海に近いこの街の、海風が当たる公園。俺はこの場所が特にお気に入りだった。これくらいの時間帯は人が少ないから、ただボーっとするのにはちょうどいい。
春、桜が公園内で綺麗に咲き誇っている。
「・・・」
思春期特有の悩みだということも分かっている。いわいる“獏然とした将来への不安”というやつだ。俺はギターが好きだ。だけど、それで食べていくつもりはない。もっと普通に過ごしたいのだ。サラリーマンでも、パン屋の店主でも、花屋でも何でもいい。ただ平和に暮して、結婚して・・・俺の前から俺を残して死んでいった親父たちの様にならなければ、それで良い。
でも・・・
それが俺のあるべき姿なのだろうか?
ふと、ケースから愛用の青いエレキを取り出す。何となしに弦を指ではじく。
ふと星空を見上げる。
「お前らはいいよな、何も考えなくて」
いつも輝いている星に向かって呟いた。
 
「一郎君〜」
「理恵ちゃん〜♪」
 
ふと見ると、カップルがべたべたしながら公園に入ってきていた。たまにいるのだ、これくらいの時に来るカップルや不良が。目が合うと気まずい。
「帰ろう」
そう言えば、昨日安さから買った牛のひき肉が冷凍室に入っていたな。たまにはがっつりハンバーグでも食べるとするか。俺はカップル達に背を向け・・・公園の入り口の門に向けて歩き出した。
 
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 
惨劇。
その言葉を一度は耳にしたことはあると思う。俺は、この状況を指すのだと理解した。
カップルの男が喰われていた。見たこともない黒銀色のバケモノによって。体長30mはある。蜘蛛のような身体にサメのような口。その獰猛な牙からは男の血と、食べられることのなかった左腕だけが滴り落ちていた。
「なんだよ、あれ・・・」
理解不能だった。
蜘蛛は次に女の方に顔を向けた。蜘蛛には目がない。まるで嗅覚で獲物を嗅ぎ分けるようだった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
簡単に引きちぎられる肉。もう二度とハンバークを食べたいとは思えないだろう。
「・・・っ」
脳に状況を示す映像が送られてくる。逃げろ、という指令が全身に下る。だが・・・足が動かない。俺は精いっぱいの指令を脳から送り続け、やっとの事で後ずさりを開始した。
だが・・・
カンッ
空き缶だった。これだからポイ捨てが嫌いなんだ。
その瞬間、獰猛な牙が並ぶバケモノの顔が俺を見つめた。どうやら、嗅覚だけでなく聴覚も優れているらしい。
刹那、その巨体から考えられないほどの速度でバケモノは俺に向けて走り出した。八本の足をワサワサと動かしながら迫る様から感じられるものは、恐怖以外になかった。
当然、俺は背を向け走り出した。だけど・・・
「くそっ・・・!」
(喰われる・・・!)
その時だった。
 
ドドドドッ!!
 
空中から1体の・・・いや、1人の巨大な人のような者が降ってきたのだ。あまりの光景に、俺は眼を丸くする。
よく見るとそれは銀色のボディに紫色がポイントで入っている。
 
「ロボット・・・?」
 
アニメで見たような、ロボット・・・。
でも、これはアニメじゃない。シュウと蜘蛛の間に立ちふさがる形になったロボットは、両腰から長短2本の剣を取り出して、構えた。その瞬間、全身のリング状の部位からは薄紫の光の粒子を放出し始める。まるでエネルギーを溜めていくかのように。そしてそのエネルギーは、二振りの剣にも届いた。
 
 
海風が吹く。
 
何かに弾かれたように駆け出した鋼鉄の蜘蛛と、白銀の巨神はその巨体をぶつけ合うようにして相塗れた。
上体を起こすようにして巨大な蜘蛛は両腕の爪を振りかざし、その巨神に襲い掛かる。それを二振りの剣で受け止める。瞳のない鮫のような敵の顔面と、光り輝く2つの双眸が剣と爪に押さえられつつ、対峙する。
俺はその戦闘状況を逃げることも忘れ、見ているしかなかった。しかし、拮抗している状態は長くは続かなかった。白銀の巨人は押され始めたのである。力負けしているようにも見えた。蜘蛛の爪が剣に食い込み始める。
ピンチに思える状況。だが、ある事をきっかけに一変する。全身から発せられる光の粒子・・・紫の力が満ち溢れてきたのだ。爪と激突している2本の剣に光の粒子が届く。この現象に、鉄の蜘蛛は怖気づいたように見えた。そして2本の剣が光り輝いた瞬間、敵の爪は吹き飛ばされた。8本から6本足になった蜘蛛に、更に剣を向ける。
トドメと言わんばかりに、剣を振り上げた時だった。
「危ない!!」
俺が叫んだ時にはすでに遅かった。突如として海からもう一体、別の巨大蜘蛛が現れたのだ。後ろから羽交い絞めにするような格好で銀色の巨人の身動きを封じる。
倒れた6本足の蜘蛛はその間に体勢を立て直し、再び巨人に襲いかかった。胸部に備え付けられたコックピットを割り、中に乗っているパイロットを露わにさせたのだ。
その姿に、俺は驚く。
「・・・女の子?」
銀色の髪。幼い顔立ち。どう見ても俺より年上には見えない。
そんな子が顔色一つ変えず、恐怖の色さえも見せず操縦桿を握りしめ、パイロットとしてロボットを操っている。
「逃げろ!」
先程のカップルの惨状が思い返される。あのままだと彼女が喰われてしまう!
だが、彼女は
「出来ない」
そう短く答え、逃げることをしない。
その間にも、羽交い絞めにする蜘蛛の力は増していき、ついに彼女はロボットから放り出されてしまったのだ。
「あっ!」
彼女は地面に叩きつけられると意識を失ってしまった。蜘蛛達はロボットには興味がないと言わんばかりに羽交い絞めにしていた爪を外すと、ゆっくりと彼女の方に向かっていた。パイロットを失ったロボットはゆっくりと膝から崩れ落ちていく。
「くそっ・・・!!」
俺は気付くとロボットへ駆け出していた。怖い。でも、このままだとあの少女が喰われてしまう。
やるしかない・・・と、思った。
コックピットに乗り込むと、予想外にシンプルな構造であることに気づく。操縦桿と思わしきレバーが2本と、状況が表示されるコンソールパネルがあるのみだ。
パネルには≪エクストレイヴァー パイロット不在≫と表示されている。
「こいつ、エクストレイヴァーっていうのか?」
シートに座ると≪パイロットを確認 認証を要請≫という表示と共に、モニターに手形のようなものが表示された。
「手を当てろってことか・・・?」
言われるがままに、俺は手を押しあてた。
 
≪エクストレイヴァーパイロット “アダム”確認 起動承認≫
 
「アダム・・・」
アダムという言葉に疑問を感じつつも、言葉に機体のあちこちに再び光が点り始める。駆動音が響き始める。
≪機体稼働開始 最終起動コード “ストレイヴァードライヴ”を要請≫
「言えって事か?」
≪肯定≫
こいつ、俺の言葉を多少なりとも理解しているのか?
「ストレイヴァー・・・ドライヴ・・・」
≪不可 声音微量 声量増大を要請≫
「もっとでかい声で喋れってか?」
≪肯定≫
恥ずかしい。中二じゃないんだから! と思ったが、見れば蜘蛛達は少女まであとほんの数メートルである。時間がない。
「ったく、こーなったらやけくそだ!」
俺は大きく息を吸い込んだ。
 
「ストレイヴぁぁぁぁぁぁっドライヴっ!!!」
 
≪エクストレイヴァー S-X02E“剣”起動開始≫
 
白銀の巨大神、エクストレイヴァーは立ち上がった。
「どうやって動かせばいい」
≪エクストレイヴァー ストレイヴァーヒューマン思考パターン解析 稼働≫
「思ったように動くってことか?」
≪肯定≫
そんな事が出来るものなのかとも思ったが、悩んでいる暇はない。機体から光のエネルギー粒子が放出されていく。先程とは違い、紫ではなく緑色だった。
「・・・いくぞ」
握り締めた拳に力をこめると、エクストレイヴァーの双拳にも光が灯った。粒子が煌き、腕を包み込む。
「はぁぁぁぁっ!」
蜘蛛の両爪を吹き飛ばすと、その光の拳を黒銀の顔面に叩きつけた。が、ギリギリのところで顔面を反らす蜘蛛。拳は外れたが、それでも前足の付け根の部分に光の拳は命中した。
光の粒子が敵の体組織を破壊していく・・・。
ギャギャギャ
奇声を上げてのた打ち回る敵は、やがて見境をなくしたかのようにエクストレイヴァーに向かってきた。咄嗟に機体をバックステップさせるイメージを思い描くと、機体は後方にジャンプし、その攻撃を回避した。
「本当に思ったように動くんだな」
だが、この見境をなくした敵に近づくことは容易ではない。どうすれば・・・
≪武装使用可≫
とてもいいタイミングでパネルに表示される文字。これも思考パターンを読み取ったからなのか?
50mmハンドブラスター使用可能≫
「・・・やってみるか」
レバーを握り、手を両腰に持っていくイメージを思い描く。するとシュウの思ったとおり、腰部のウェポンラックから2艇拳銃が現れる。
「くらえっ!」
躊躇いなくそのトリガーを引いた。1発・・・2発・・・3発・・・!! その弾丸に紫の光粒子が絡みつき、破壊力を上げていく。
全弾、命中した。蜘蛛の内の一体は行動を停止する。
だが、まだもう一体残っている。
≪対装甲強化重斬剣ブレイカーソード 使用可能≫
コンソールパネルは、先程こいつが使っていた剣がまだ使用可能な事を示している。俺は剣を一振り拾い上げた。
「うぉぉぉぉっ」
鉄の蜘蛛に向かって駆け出す。そして、天高く舞い上がった。夜空を背後に舞い上がる白銀の機体。それを地上からその蜘蛛は睨みつける。だがエクストレイヴァーの勢いは止まることはない。
自由落下の速度と、光粒子の力を借りて空中からエクストレイヴァーは、その剣を振り下ろす。高空から振り下ろす一撃は、蜘蛛の後部の脚部を斬り裂いた。
 
ギギギギッ
 
奇声、どうやら蜘蛛にはまだ息があるらしい。しぶとい奴だ。
前足2本、後ろ足2本を失ってもなお、残された4本の脚で立ち上がる。敵に対して、俺は恐怖を覚えた。いくら死にかけだとは言え、いや死にかけているからこそ、断末魔の攻撃は怖いものがある。
その時、蜘蛛の最尾・・・尻部分が赤く発光しだした。俺の感覚が告げる。横に回避行動をとろうと考えた。だが、ここを避ければ
「背後の彼女が・・・」
気を失っている少女が、危ない。
刹那、俺は剣=ブレイカーソードを前面に構えるイメージを浮かべる。同じ体勢をエクストレイヴァーも取った。
尾から発せられた光の帯=熱光線と、刀に展開させた光の粒子が激突する。
相対する緑と赤の粒子。
 
バァァァン!!
 
爆発に包まれる白銀の機体・・・
 
だが・・・
爆炎の中から、機体は現れる。
白銀の装甲に深緑の光・・・今操っているこの白銀の巨大神“エクストレイヴァー”が人類の希望であることを、俺はまだ知らない。
 
コックピット内で、コンソールパネルに問いかけた。
「これだけあるんだから、無いとは言わせない・・・必殺技はあるんだよな」
≪肯定 起動コード ストレイヴエナジードライヴアップ≫
俺は再び息を大きく吸い込んだ。叫ぶ。
 
「ストレイヴエナジー、ドライヴアップっ!!」
 
≪開始≫
表示されると同時に、機体全体に装備されたエナジーリアクターから大量の緑に輝く光粒子が放出された。
「・・・なんでこんな事になってるんだか」
そう呟く俺。今日の朝起きた時は、こんな転校生が来ることもロボットに乗ってこんな化け物と戦うことも考えていなかった。自分の置かれている状況を考え直すと不思議な気分だし、馬鹿らしくなってくる。が、今更だ。
再び俺の、シュウの双眸は鋼鉄の蜘蛛を睨みつける。意識を集中させた。
刀であるブレイカーソードにも光粒子が吸着、輝きを増していく。
海風が吹き付ける。
夜桜が舞った。
 
背部に装着されているブースターが起動した。
「はぁぁぁっ!!」
駆け出す黒き蜘蛛と白銀の巨人。
 
すれ違った時、既に勝敗は喫していた。
 
ギャャァァッ!!
 
奇声と共に倒れる鋼鉄の蜘蛛。鉄ごと相手の体内を斬り裂いたのだ。奴の体内からは血しぶきと肉片が散乱している。昔のアニメみたいに爆発・・・ということはないらしい。
コックピットの中からシュウは空を見上げた。
 
さっきまで見えなかった月が、雲が去ったからだろうか・・・星達と同様頭上から機体を照らし出す。舞い散る、桜と共に・・・。
 
俺はコックピットから降り立つと、倒れている少女に駆け寄った。
「大丈夫!?」
彼女は眼を開くと、こう呟いたのだ。
「・・・アダム」
そういえば、さっきのパネルも俺を“アダム”って・・・。考えた瞬間顔の傷口に痛みが走った。まるで考えるなと、思いだすな言わんかの様に。
 
俺はふらつきながら、彼女の元を離れた。
逃げるように、自分の家へ向かう。
 
説明できない。
ただ一つ言えるのは銀色のロボット、エクストレイヴァーとあの少女に強い嫌悪感を何故か自分が抱き始めているということだけだった。
「あれは、きっと・・・夢だ」
俺はそう思う。
思うしかなかったのだ。
 
STRIGVER 第一章 威舞〜EVE〜
イメージオープニングテーマ
茅原実里/君がくれたあの日
(
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Episode.03「白銀の転校生」
 
ここは、俺が去った後の公園。ここから先の場面に俺はいない。俺が後からツバサなどからの話を元に想像したもにになる。
公園は、十数分前には巨大ロボット、ストレイヴァーと蜘蛛型巨大生物との激戦が繰り広げられたとは思えない静けさだった。しかし、折れた木々、焼け焦げた桜、抉れた地面などから戦闘の激しさは窺い知ることが出来る。
公園の広場に着陸するのは巨大な三角形の形状の輸送機C-3S。搭乗者達からはデルタキャリアーの愛称で親しまれていた。
デルタキャリアーに先程の損傷が激しいストレイヴァーの積み込み作業が始まっている。
作業の進行状況を見つめる1人のスーツ姿の男。50代といったところか。テキパキと指示を出す姿からは、彼がこの組織のリーダーであることが判る。
「弓月総司令」
総司令と、スーツ姿の男に声をかけたのは、白衣姿の男だった。スーツ姿の男より若い。30代くらいであろう。彼は弓月に状況報告を進めた。
「タイプESX-02Eでの戦闘中に外へ放り出され、意識を失ったものと思われます」
「容体は?」
「はい。気絶に近いものなので、明日には意識は回復すると思われます。それよりも問題は」
「エクストレイヴァー本体、か」
「はい。どうやら既定外のパイロットが乗り込んだようでして、SX-02Eには予想外のダメージが蓄積しています。再起動には約1か月を要すかと」
「では、現在使用可能なストレイヴァーは・・・」
SX-03A・・・タイプA専用エクストレイヴァーのみです」
「暮乃君」
暮乃と呼ばれた白衣の男は背筋を正した。
「なんでしょうか?」
「言ったはずだ。俺はそのタイプAとかタイプEとかいう呼び方があまり好かん」
「ですが、あれは我々によって作られたものです」
「だとしても、人間であることに変わりはない。慎め」
「・・・はい」
暮乃は不服そうであったが、総司令である弓月にこれ以上進言する事は出来ない。第一、そんな事をしている暇がない。
「・・・疑問だな」
ふと、総司令が呟いた。
「何がでしょうか?」
「既定外のパイロット、というのは普通の人間だったんだろう?」
「はい、威舞は気を失っていたので。恐らく近くに居合わせた人間が咄嗟に乗り込んで動かしたものと思われます。ストレイヴァーには高度なAIが搭載されていますし、稼働意識を直接機体に送り込む操縦方法をとっていますので、動かすこと自体はそう難しくはありません」
「難しくないのは、搭乗者がSH計画対応者である場合・・・じゃないのか?」
「そうですが」
「しかもその偶然居合わせたパイロットとやらは、初搭乗にして2体ものヴォルヴを撃破したことになる」
「・・・まさか」
暮乃はある結論に行きつく。
「そのまさかだ。ストレイヴァー内の認証データを当たれ。パイロットを調べて、そこに調査の者を送り、協力を要請する」
「そんな回りくどい事をしなくても」
「彼は威舞とは違うかもしれない。普通の家族と普通の生活を送っている人間になっているかもしれないんだ。無理矢理なことはしたくない」
「ですが、地球の危機なんですよ!」
「それでも・・・だ」
しぶしぶ暮乃は了解した。そして、部下に指示を出すために去っていく。
一人残された弓月は、天を仰いだ。
「許してくれ・・・」
星達は、黙ったままだった。
 
翌日。アパートの一室。俺はベットから身体を起こす。朝6時。遅刻じゃない。長年の独り暮らしの賜物か、朝は強い。
「あれは夢だ」
そう思うようになっていた。家に帰ってすぐ寝たから制服はくしゃくしゃだったけど、朝からアイロンをかける気にはどうしてもなれない。シャワーを浴びて、トーストをかじりながらワイシャツだけ変えて学校へ向かった。
 
教室に入ってから数分後、夕莉がやって来た。
「もう、どうして先行っちゃうの!」
どうやら怒っているようだった。
「そんなどこ吹く風みたいな顔しないの! シュウに言ってるんだよ」
「ああ、すまん」
「もう! アパートのシュウのドアノックしすぎて、隣のおじさんに『もう出てったよ』って言われなかったら、今ごろ手の甲血だらけだよ! 今だって、ほら」
そう言いながら無駄に赤くなった手の甲を見せる。どんだけ強い力でノックしてるんだ、こいつは。
「分かった、分かった。こんどから先に行くときは声掛けていくよ」
「ならよろしい!」
(いつも寝坊しがちなのはそっちだろう、夕莉。俺がいつも待ってるんだから、たまには1人で学校行くくらいいいだろう)
と、心の中で呟いてみたりみなかったり。
夕莉はお隣さんである。アパートのお隣さんではなく、アパートの隣にあるおしゃれな一戸建てに住んでいる・・・という意味でのお隣さんだった。昔から夕莉のとこのおじさんとおばさんには世話になっていた。両親がいない俺の、親代わりのような存在だ。兄妹のように育ってきた俺達はその流れで朝は一緒に登校するのが小学校からの日課だった。無論、今となっては恥ずかしくて仕方がない。既に俺と夕莉は付き合っているという設定が学校中に広まっている。非常にめんどくさいが、夕莉は持ち前の大雑把さで半ば許容していた。だから、俺が否定しないとマジっぽくなってしまう。今年もクラスが一緒になってしまった。俺の必死の活動が予想される。本当はバンドも1人でやりたかったのだが・・・無駄にベースなんか勉強しやがって。
 
チャイムの音。
 
男の担任が教室に入ってくる。騒がしい教室は鎮まることはない。驚きの第一声によって、その状況は一変する。
「高校二年からこのクラスに参加することになった編入生を紹介する」
微妙な時期だった。始業式から参加するのなら判る。が、授業が始まって3日目というこのタイミングで?
そんな事を気にも留めない、二年生随一の馬鹿が集まったこの4組。当然クラスは盛り上がった。と同時に、早くその編入生をいち早く見たいという思いから一糸乱れぬ動きで座席に着席する。
「厳禁な奴らだ。入れ」
俺は妙な不安に駆られた。昨日の少女が来るのではないか・・・。こういうドラマとかだと、前日に転校生に合っていて『アッ! 君は』とか言うパターンが多かったように思える。俺は身構えた。
「編入生のツバサ・ハイヴルフだ」
ドアが開き、ツバサと呼ばれた少年は壇上に上がった。
「僕はロシアから留学してきました。ツバサ・ハイヴルフです。日本人のおばあちゃんをもつクォーターになります。よろしくお願いします」
入ってきたのはロシア系の少年だった。身長は俺より低い。ブロンドの髪で整った顔立ち。さわやかな笑顔。クラスの女子は大盛り上がりだった。男子は大盛り下がりだった。
俺は安心したように肩をなでおろす。
「ふぅ・・・」
「どうしたの? そんな安心しきったような顔して」
隣の座席の夕莉がまじまじとこちらを見つめる。
「そりゃ、安心するだろう」
「どうして?」
「どうしてって・・・ま、いろいろだよ」
「ふーん。あっ、もしかしてああゆう男の子が趣味なの??」
「んな事あるか! 男に趣味はない」
夕莉は腑に落ちないような表情を浮かべていた。
夕莉と普段と変わらぬ他愛もないやり取りをしているうちに、俺はだんだん落ち着いてきた。昨日の夜からあれは夢だと無理やり思いこもうとしていたせいで、すごく疲れている。よくよく考えれば、あんなことが現実にあるわけがない。夢だ、夢以外の何物でもないのだ。編入生は彼女ではなかった。それだけで俺にとっては十分な安心材料だ。
だが
「そして・・・もう一人紹介する。入れ」
担任が手招きをする。入ってきたのは、銀色の髪の幼さが残る少女。
「もう1人の編入生、弓月威舞だ」
 
こくんと会釈をする少女。
俺の中の安心材料は、消えた。
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 Episode.04「使命と義務」
 
授業が終わり、いつものようにバンド、ドリーマーズの面々は空き教室に集まる。今日のエイジは上機嫌だった。なぜなら、探し求めていたドラム担当が見つかったからだ。
「軽く経験がある程度ですが、よろしくお願いします」
軽くお辞儀をするツバサ・ハイヴルフ。礼儀正しい子だった。軽く打ち合わせをし、『とりあえずやってみよう!』というエイジのノリに合わせてくれている。先輩だから、ということもあるのかもしれない。だが、そんなことを一切顔に出さない。先生から好かれるタイプの子だろう。
それより問題は・・・。
(弓月威舞・・・)
俺達の演奏を黙ってずっと聞いている。何故ここにいるのか全く分からない。夕莉が話しかけても、頷いたり、小さく答えするだけでずっと無表情。ツバサ曰く「彼女、ずっとバンドに興味があったらしいんですよ」との事だった。
一通りの演奏を確認を俺達は終えた。ツバサのドラムはとても上手かった。先程の『軽く経験がある程度』というのは謙遜だろう。どちらかというと俺の方が問題ありだ。今日は失敗ばかりしている。何故か? 全部あの弓月っていう編入生のせいだ。昨日の一件のせいで気を取られて演奏に集中できない。
休憩に入る。ボーカルであるエイジは喉を潤すためスポーツドリンクを少しづつ飲んだりしていた。
夕莉は威舞に
「さっきバンドに興味があるって言ってたけど、どんな楽器使いたいとかあるの?」
と、聞いていた。折角の編入生である。女の子的にはさっきからずっと一人ぼっちだった弓月と何か話をしようと気を使ったのだろう。
弓月は小さい声で
「ギター」
と言った。
「ギターか! じゃあシュウと同じだね。今度教えてもらったら?」
「シュウ・・・」
そう言って、彼女は俺を見つめた。蒼い瞳で・・・ゆっくりと。俺は眼をそむけた。
「どうしてギターに興味持ったの?」
「総司令がむかしやってたって」
「そうしれい?」
聞きなれない言葉。夕莉は眼をキョトンとさせている。
「威舞の父親代わりみたいな人で。ちょっと特殊な職場だったから自分の事そう呼ばせていたみたいですよ」
間に割って入ったのは、新バンドメンバーであるツバサだった。
「そうなんだ。二人って知り合いなの?」
「えっ?」
「だってさっきから“威舞”って下の名前で呼ぶから」
「あー、はい。ロシアでは同じ学校出身でした。向こうだと下の名前で呼ぶのが普通ですから」
「そうなんだ。このバンドではみんなの下の名まで呼ぶよ。エイジ、シュウって」
「そうなんですか。僕も呼んでいいですか?」
「もちろん、ツバサ! 威舞ちゃんもね」
弓月は感情が読み取れない無表情な顔を縦に振った。
チャイムの音が教室中に響き渡る。
「じゃあ、帰ろうか!?」
エイジの一声で、帰宅の準備を始めるバンドメンバー達。
「俺は少し練習してから帰る。今日ちょっとミスっちゃったし」
「分かった。あんまり遅くなって、先生に眼をつけられるんじゃないぞ」
「ああ」
 
去っていく仲間たち。
教室に1人残される俺。
ギターに触れる気にはどうしてもなれなかった。
あの弓月という少女・・・あれは、一体・・・。
昨日のあの少女と同一人物なのだろうか? そもそも、あの出来事は本当にあったのだろうか? 夢だよな。そうだ、夢だ。別にあの少女がいたからと言って、夢じゃなかったという証拠になるわけじゃない。
そう思うと、少し気が楽になった。
 
空き教室のドアが開く。
「ツバサか? どうした?」
ツバサがこちらを見つめていた。
「忘れ物です・・・」
「そうか」
俺は短く答えると、窓の外に視線を移した。
「・・・ということになっています」
ツバサから出た意外な言葉。
「どういう意味だ?」
ツバサ、と言う名の編入生は俺の目の前にいる。今まで浮かべていた明るい笑顔とは違う、真剣な表情で。
「なんだよ」
俺は聞いた。彼から出た返答は、意外なものだった。
「昨日のバケモノの事、知りたくはないんですか?」
「・・・何故その事を」
「当然です。僕と威舞は、あのロボットを有する組織、AVSF(アブサフ)からやって来た隊員なんですから」
「アブサフ・・・?」
「正確には、Attack(アタック)・VOLVE(ヴォルヴ)・Special(スペシャル)・Force(フォース)。人類捕食型地球外生命体“VOLVE(ヴォルヴ)”に対抗する為に設立された、秘密組織です」
俺は嘲笑した。いや、せざるおえなかった。
「そんなSFみたいな話。俺は昨日見たのは夢で・・・」
「夢?じゃあ何故、僕が此処にいて、こんな話をしているんですか?」
「・・・」
「何故、威舞はここに来たんですか?君は昨日見たはずです。巨大な蜘蛛のようなバケモノ“ヴォルヴ”、銀色の人型兵器“ストレイヴァー”、そしてそれに乗る君と同い年のパイロット、タイプEである“威舞”の姿を」
「・・・あんな事が現実にあるもんか」
「信じるも信じないも自由です。でも、これは現実。この地球上には既に先遣体のヴォルヴ50体が侵入していると思われます」
あれが・・・50体も。
「そして宇宙からの小隕石内には1000体近いヴォルヴが存在し、地球に向けて迫っている」
俺は思考を停止した。あんなバケモノが、この平和な地球に? 嘘だ。嘘に決まってる。
「僕が何を言いたいか、分かりますか?夜霧シュウさん」
「さっぱりだな。分かりたくもない」
「この地球は危機に瀕しているんです。だから、力を貸して欲しいんです」
「力を・・・貸す?」
「ストレイヴァーのパイロットになって欲しい、君なら」
俺は鞄を掴み取り、ギターケースを握り締めた。
「断る」
ドアに向かって歩き出す。
「待ってください」
「嫌だ」
「君には戦う義務がある!」
俺は足を止め、振り返った。
 
「義務なんてない、俺の道は・・・俺が決める」
 
ドアを開けた。
「どうしてそこまで乗りたくないんですか。人類の為に戦う事がそんなに嫌ですか?僕はパイロットです。人類を守るこの仕事に誇りを持っている」
「それはお前が自分で決めた事だろう?」
それだけ言い残すと、俺は教室を出た。
茜色の光が廊下に差し込んでいた。世界が紅い。まるで、昨夜のカップルの血のように。
ツバサの言っていることはもっともだ。だけど・・・俺は乗りたくなかった。ストレイヴァーという戦闘マシンに乗り込みたくないのだ。自分の心の中にものすごい嫌悪感がある。
「タイプA!!」
ツバサが叫ぶ。
俺はその呼び名を聞いたとたん、顔の傷が疼いた。
「俺を・・・その名で呼ぶな!!」
理由は一切分からない。ただ、俺はその名で呼ばれたくなかった。
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Episode.05「偽られている日々」

俺がツバサの提案を拒否してから数日。俺の今後を巡ってAttack・VOLVE・Spectial・Force、通称AVSFで会議が行われていた。関東近郊地下にあるAVSFの基地。修理中の数多くのストレイヴァーが横たわっているドック横のブリーフィングルームにて、数名の関係者が集まっていた。
報告の為に椅子から立ち上がったのは、ツバサだ。
「ツバサ・ハイヴルフです。タイプA・・・いや、夜霧シュウの説得には失敗しました。彼はストレイヴァーに搭乗する事を頑なに拒んでいます」
発言を終えると、ツバサは着席した。
「総司令。やはりここは強硬手段に出るべきと考えます」
立ち上がったのは白衣姿の男、暮乃祐司だった。
「司令は彼に対して甘すぎます。時間がないんです」
彼の提案に対して、司令と呼ばれた男・・・弓月玄一は首を縦に振らなかった。
「ダメだ」
「何故です」
「無理矢理にストレイヴァーに乗せても、機体とのシンクロ率が下がってしまう。それは科学者である君ならよく分かっているはずだ」
「それでも、それしかないならやるべきです」
「危険だ」
「総司令!」
「強硬手段はまだ早い」
「・・・総司令は甘すぎます! タイプEの事もそうです! 社会に出したいなどと学校に入れさせるなんて!」
「意識を失ってるとはいえ、威舞は夜霧シュウと接触している。何か反応があるかもしれない」
「反応なんて、そんな悠長なことを言っている場合では・・・」
その時、手が挙がった。
「なんだ、影沢」
影沢と呼ばれた女性は立ち上がった。切れ長の目に強い意志を感じさせる風貌だった。
「質問があります。総司令」
「言ってみろ」
「何故、彼がタイプAであるという事を伏せていらっしゃるのですか?」
「・・・彼が生まれ育った状況を考慮しての判断だ」
「ですが、真に説得しアブサフのメンバーとしたいのであれば、真実を彼に話すのが筋ではないのでしょうか?」
その言葉に、弓月総司令は黙った。数秒の沈黙ののち、彼の口が開く。
「時を待つ。そして、その事実を話すとすれば・・・俺から言おう」
 
ブリーフィングルームに残されたのは量産型ストレイヴァーであるエムストレイヴァーのパイロットであるツバサ・ハイヴルフと影沢薫の二人だった。
「はい、影沢さん」
影沢にコーヒーを渡すツバサ。
「すまない」
影沢はコーヒーを受け取った。
「影沢さんは、どう思いますか?」
「夜霧シュウを無理やり協力させるか、否か・・・か?」
「はい」
彼女は立ち上がると、ブリーフィングルームの窓の外の様子を見つめる。ストレイヴァーのドックが一望できるのだ。
修理されていく10体ほどの量産型SM-06、エムストレイヴァー。
紫銀の機体SX-02E、エクストレイヴァー“剣”。
まだ稼働せず、綺麗な状態で管理されている緑銀の機体SX-03A、エクストレイヴァー“刃”。
そしてさらにその奥にはまだ高度なプログラミングで完成していない真紅の機体SXW-04A/Eと、試作段階で破棄されたSX-01、エクストレイヴァー“拳”が控えている。
これほどの機体がある中でまともに動ける機体はSX-03Aのみ。そしてそれを操れるものも1人・・・か。コーヒーを数口すすった後、影沢は口を開いた。
「やる気のない奴と、私は共に戦いたくない」
「では無理やり協力させるべきではない、と?」
「ああ。士気の低い奴ほど役に立たない兵士はいない。戦場の基本だ」
「それは! そうかもしれないですが・・・」
彼女はブリーフィングルームの椅子に再び深く腰掛けた。
「何か、言いたげだな」
「僕達は、試作ストレイヴァー隊第一試験運用隊の生き残りです。オーストラリアでの戦いで、多くの仲間を失いました。あの時の対ヴォルヴ戦のデータがなければ、現在のエムストレイヴァーのOS(オぺーレーション・システム)は完成を見なかったでしょう。だから、その犠牲を犬死とは思いません。しかし・・・」
「しかし・・・何だ?」
「あの時僕達が生き残れたのは、タイプEが窮地を救ってくれたからです。SH計画対応者にはそれだけの力があります。力ある者が、この状況を傍観していることが・・・僕には許せないんです」
ふん、と影沢は鼻で笑った。
「何がおかしいんです!? もしあの時タイプEの実戦投入が、いえ、タイプAが存在していたなら・・・仲間たちの犠牲も、あなたの婚約者だって」
「それはもういい」
「もういいって・・・」
「お前の論理は分かった。だが、今まで平和の中にいた連中にとって、この状況はそう飲み込めるものではない」
ツバサはコーヒーを一気飲みしながら椅子に深く腰掛けた。
「・・・政府は、どうして情報を開示しないんですか?」
「政府が、今まで平和の中にいた連中そのものだからだ」
影沢は飲みきったコーヒーの紙コップを握りつぶした。
 
西暦1944年。第二次世界大戦終結。日本はアメリカに有条件付降伏。ポツダム条約締結。朝鮮と満州を失うものの、北海道(北方領土含む)、本州、四国、九州(沖縄含む)は旧来通り日本の領地となり、自治を認められる。天皇の意向により、以後日本は平和的貿易国家としてどの同盟にも属さない永世中立国としての立場を取り始める。
 
西暦1945年。ドイツの降伏を以て、第二次世界大戦終結。
 
西暦1950年。朝鮮戦争をきっかけにアメリカを始めとする資本主義国家と、ソ連を始めとする社会主義国家対立が本格化。第三次世界大戦が勃発する。
 
西暦1972年。20年以上に渡る戦争の末、疲弊しきった両国の仲介を日本がする形で和平条約締結。もはや国を運営する力が両国に残っていなかった為、日本主導の下再建計画を開始。
 
西暦1980年(新暦元年)。国連の意向もあって、全世界統一国家が誕生する。この年をもって、平和の始まりの年“新暦”がスタート。
 
新暦(NE.=New Era)49年。人々は平和が当然のものだと考えて過ごしてきた。国連軍は存在するものの、形だけのものでしかない。
 
・・・平和は、そこにあるものだと人類は考えて生きてきた。
 
・・・人類捕食型地球外生命体“VOLVE”の存在を、多くの人類はまだ知らない。
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Episode.06「心の孤独」
 
425日。いつもの空き教室。いつもの放課後。今日もエイジはマイクを握る。
本番まであと2週間を切っている。ドラムも入った俺達“ドリーマーズ”にとって、後は目標に向かって一直線・・・のはずだった。
エイジはマイクに自らの声を叩きつけた。
「この広く深い宇宙を、さ迷い歩く迷子達〜」
ベースをかき鳴らす夕莉。
「誰もが 愛し合う他に何が出来る〜」
ドラムをたたき続けるツバサ。
「そんな無垢な心の〜」
俺も負けじとギターを握りしめた。だが・・・
 
・・・不協和音。
 
皆が演奏をやめる。全員が俺、夜霧シュウを見つめた。エイジが俺に問いかける。
「最近どうした、シュウ?」
「おかしいぞ、お前」
「悪りい」
「・・・」
夕莉も俺の事を心配しているようだった。
「どうしたの、シュウ? らしくないよ」
「別に・・・」
俺は眼を背けた。理由は分かっている。俺は顔をあげた。教室の隅でいつもバンド練習を見ているあの少女・・・弓月威舞。
 
チャイムが鳴った。
 
「ごめん、俺残って練習していくから。先行っててくれ」
去っていく仲間たち。
「じゃ、私も残る!」
そう言いだしたのは・・・夕莉だった。
「えっ」
「大丈夫、邪魔しないから」
「でも」
「シュウがいないと、帰り道1人になっちゃうんだもん。女の子を1人で返すつもり?」
エイジが突然躍り出た。
「オレが、送ってやろうか!?」
「・・・いいです」
落ち込むエイジ。ツバサが『大丈夫ですよ』と励ましながら去っていく。エイジは最後に『じゃあな』と小さいく残すと教室を出た。弓月も一緒だった、最後に小さく会釈をして彼女も去る。その瞳は、やはり無表情だった。
二人だけになった教室。
「どうしたの、シュウ?」
俺は机に座った。
「別に・・・」
「嘘ばっかり」
夕莉は窓の外を見つめる。夕焼けだった。
 
「・・・威舞ちゃんの事、気になってるの?」
 
「・・・」
俺は返答できなかった。たぶん、夕莉が考えているような“気になっている”とは決定的に違う。でも、“気になっている”という事は本当だった。どう気になっているか? そんなことは言えない。それを彼女に話せば、この平和な世界が偽りだと教えることになってしまう。
「威舞ちゃんのこと気になってるんでしょ? 練習中もチラチラ見てるし・・・それで手元が狂ってるように見えるし。そりゃ、確かに威舞ちゃんは可愛いし、綺麗だし・・・私は全然かまわないんだけどね! なんて言うか・・・ほら、幼馴染なんだから! 恋の手助けでもしちゃおっかな〜っていうさ! ね」
「・・・」
俺は下を向いた。
「何か言ってよ・・・シュウ」
俺を見つめる彼女は、泣きそうだった。瞳が潤んでいる。
「別に・・・なんでもないよ」
それが、俺の精一杯の答え。
彼女は無言で教室を出た。
 
別に、夕莉は彼女でも何でもない。
それに間違いはない。
それでも、大切な人だ。
 
・・・傷つけてしまった。
 
こうしている間にも、世界は破滅に向かっているのだろうか? そう考えると、心が落ち着かない。顔の傷が疼く。でも、俺にどうしろというんだ? 俺は普通の人間だ。確かに親はいないかもしれない。それでも俺は人並みに育ち、人並みの生活を送ってきた。普通の人間だ。
怖いのだ。
この平和からはみ出すのが。あの血みどろのような戦いに足を踏み入れるのが。
 
「ほっといてくれ・・・俺を」
 
俺は膝を抱えた。
太陽は沈み、星達が瞬き始めた。
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Episode.07「感動」

翌日の日曜日。学校も休みであり、バンドの練習も必ず日曜日は休みということになっていた。理由は、リーダーのエイジ曰く『日曜朝はスーパーヒーロータイムを見ろ。そして余韻に浸れ。トイザらスにお布施の意味も込めてバンダイ製のおもちゃを買いに行け。だから日曜は休みだ。以上!』
だそうだ。
 
・・・バカだ。
 
家で寝てようかとも思ったが、家に居てもあの事を考えてしまうだけだ。気が滅入る。だったら教室で思いっきりギターを弾いていたいと思った。当然だが、勉強するという選択肢はない。
という事で、日曜の空き教室には俺しかいない。昼の十時。太陽がサンサンと照りつけ始めるはずの時間帯であったが、今日はあいにくの雨模様だった。俺は蒼い愛用のエレキギターを取りだすとアンプにつなぎ、演奏準備を整える。
「行くか・・・」
ギターを握る手に力を込めた、その時だった。
 
ガラガラガラッ
 
教室の戸が開く。
そこにいたのは・・・
 
「弓月威舞・・・」
彼女は、いつものように無表情で教室の隅に向かった。ちょこんと、最早定位置のようになった教室の机の上に座る。そして、いつものように黒目がちな瞳で俺を見つめるのだ。
俺と彼女の間に、沈黙が流れる。耐え切れなくなって、俺は聞いた。
「何だよ」
「みてる」
「・・・」
俺はギターを置いた。こんな状況で、弾く気がしない。
「・・・シュウは、アダムなんだよね?」
突如として、彼女は自分から口を開いた。今まで無言だった弓月が。言っていることは全然分からないが。
「どうしてストレイヴァーに乗らないの?」
「乗りたくないからだ」
「どうして? アダムなのに」
「・・・」
「アダムがどうして、ストレイヴァーに乗らないの?」
「・・・」
「どうして」
「俺は、アダムじゃない!!!」
叫んでいた。訳が分からない。
 
彼女は再び黙った。俺は窓からグラウンドに眼をやる。雨だというのにアメフト部はタックルの練習を止めなかった。
沈黙が包み込む。
アメフトの笛の音と、雨の音しか聞こえない
 
逆に俺は彼女に聞いた。
「なぁ。弓月」
「威舞でいい」
「え?」
「弓月はわたしの名前じゃない」
何でもいい。
「・・・お前、ストレイヴァーってのに乗って、戦ってるんだよな?」
頷く弓月。
「逆に俺が聞きたい。どうしてだ?」
迷いなく、彼女は答えた。
「言われるから。戦えって」
「・・・それだけで?」
「それだけ」
彼女はただ、俺を静かに見つめていた。
「嫌じゃないのか? 戦えって言われて・・・お前もあのツバサとかに言われたから戦ってるんだろ?」
「ツバサは関係ない。わたしは戦う。それだけ」
「他にないのか? やりたい事とか。したい事とか?」
「やりたいこと・・・したいこと・・・?」
「ああ。夢とか、そういうのだ」
彼女は考えている。そして口を開いた。
「・・・ない」
「ないって・・・」
 
「知らないから」
 
気づいた。もしかしたらこの少女は、戦うことしか知らないではないだろうか?ストレイヴァーというバケモノじみたロボットに乗せられて戦うことしか・・・教えられてこなかったのではないか? 夢も、希望も、幸せも・・・何も教えられてこなかったのではないだろうか・・・。
そう考えると、俺は彼女がとても可哀そうな存在に思えてきた。
「寂しくなかったのか?」
「さびしいって、なに?」
この少女は知らないのだ。寂しさを。いや、寂しくない時を感じたことがない。
だから、今、寂しさを感じることが出来ないのだ。
寂しさだけじゃない・・・。
怒り、喜び、悲しみ・・・。
恋もそう・・・。
全ての感情を封印され、ただの人形として・・・育てられて来たのだ。ただ、戦う為に・・・。
 
「聞いてろ」
 
そう言うと、俺は再びギターを握りしめる。
 
弾いた。
ただ、全力で。
 
ギターを初めたきっかけは、弾いているときの爽快感と、弾き終えた時の達成感を求めていたからだ。つまり、自分の為。だけど今、初めて誰かの為に弾く。全力で相手に何かを伝えようとしている。それは彼女が味わった事がないものだろう。
 
数十秒後、柊真渾身の演奏は終わった。
いきなり演奏しだしたからか、威舞はただ自分を見つめている。相変わらず無表情だったが、たぶん驚いているに違いない。
「どうだった?」
威舞に問う。
「・・・すごい」
柊真は少し笑って、こう言った。
 
「それが、感動だ」
 
無表情だった彼女の顔・・・いや、瞳。その瞳に少し光が差し、輝き始めた気がする。
「やりたいこと、出来た。・・・ギターを教えて」
威舞は口を小さく動かして、そう言った。
「えっ?」
言葉がよく聞こえなかったことと同時に、信じられない意味に聞こえたので、俺は聞き返した。だが、帰って来たのは同じ言葉。
「昔、弓月総司令がひいてるのをきいていてかっこいいなって思った。またききたいって思った。でも“アダム”の・・・」
彼女は首を振った。無表情だが、自分の言った事を正そうとしている。
「“シュウ”のギターを聞いたら、自分でやりたいって思った。やりたいこと、あった。ギター、やってみたい」
 
断る理由はない。
俺の中の彼女に対する恐怖心・・・それは自然と消えて言った。
 
俺はふと考えた。
自分がギターを弾きたいって思ったきっかけは何だったんだろう。
 
俺は背中から威舞を包むようにして威舞にギターを持たせてやる。そして、持ち方や弦の弾き方を教え始めた。
 
雨が、止み始めた。
雲間から光が差し込み始める。
 
俺達を見つめる視線に、俺は気付かなかった。
教室の扉の隙間から俺達を見つめる、夕莉の悲しげな視線に。
そして、そんな夕莉を気遣うように廊下の陰から見守る、エイジにも。
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Episode.08「プロジェクト・ワン」
 
弓月・・・いや、威舞との溝が多少なりとも埋まった事で、前のような演奏での失敗はしなくなっていった。威舞には時折ギターを教えている。どんどん腕をあげてきていて、今では俺と遜色ないくらいの演奏をこなせるぐらいにまで成長していた。異常なスピードであるが、ツバサ曰く『威舞は昔から集中力が尋常じゃないですから』との事だった。全てが前向きに動き出していた・・・はずだった。
だが、俺の心が晴れたわけではない。
いつまたあの化け物がやってくるのか分からないのだ。あの恐怖はそう忘れられるものではなかった。ツバサと二人きりになるとよく俺に聞いてくるが、戦う気にはどうしてもなれなかった。どう転んだって、俺は普通の人間なのだから。
 
58日。本番まであと2日。ツバサが俺に手紙を渡してきた。
「これは?」
「僕の上司が、君に会って直接話がしたいそうです」
 
本番1日前。5月9日の朝。街が一望出来る丘。俺が指定されたこの場所にやってきた時、既に一人の男がいた。俺を呼んだ張本人。スーツ姿に少し白髪が混ざっている様は、ナイスミドルという言葉がよく似合う。
「おはよう。久しぶりだな、夜霧シュウ君。こうして顔を合わせるのは」
「初対面だ」
「・・・俺は前置きというのが嫌いでな。」
「俺も同じだ」
「なら話が早い。これから話す事を、落ち着いて聞いてほしい」
渡された手紙には、“AVSF総司令弓月弦一”と書かれていた。こいつが本当に組織のトップなら、どんなものなのか知りたいとも思う。
「今から三十年前、長野県で新ヶ岳遺跡が見つかった。そこには近い将来来るであろう未知の怪物ヴォルヴに関するデータと、世界最古のストレイヴァー“ゼロストレイヴァー”が残されていた。解析の結果、三十年後、つまり今・・・ヴォルヴが地球に襲来する事が分かった。当然、人類は迎撃準備に入る」
「・・・それと俺に、どんな関係があるんですか?俺は一度ツバサって奴の話を聞いた。その時も言ったが戦うつもりはない」
SH計画・・・」
「えっ?」
何だろう。今SH計画という言葉を聞いた瞬間、背筋に悪寒が走った。初めて威舞にアダムと言われた時と同じ・・・嫌悪感、としか言いようのないものが。
SH計画については聞いていないだろう」
「何なんだよ、SH計画・・・って」
「当初、人類は戦闘機などの従来兵器で迎撃をしようと考えていた。しかし、ストレイヴァー特有の超金属“メタルストレイヴ”がヴォルヴがもっとも拒否反応を示すものと言うことが判明。ストレイヴァーを主力戦力とする事が決定した。ただ、ストレイヴァーにはもう一つ“ストレイヴエナジー”という動力源が備わっていた。君も見ただろう?あの光の粒子のことだ」
ストレイヴァーの各部から放出された粒子。確かに粒子が出ていた時は性能が数段上がっていたような気がする。
「あのシステムだけはどうしても再現する事が出来なかった。いや、再現はする事が出来たが、発動する事が出来なかったんだ。様々な要素を考えた結果、パイロットに起動の秘密があるのではないか?という結論に至った」
「パイロット?」
「ストレイヴァーの中には、DNA情報が残されていた。そのDNAを元に人工的にパイロットを作る事が決定した。それがSH計画、ストレイヴァー・ヒューマンプロジェクト」
「まさか」
「君は不思議に思わなかったのか?初めて乗ったロボットを、何故あそこまで操る事が出来たのか」
俺の脳が一つの結論に行き着く。
「やめろ・・・」
「幾多の実験を乗り越え・・・完成した二体の成功体、それが・・・」
「やめろ!!」
「アダムとイヴ、君と威舞だ」
俺が、人工的に創られた?
戦う為に・・・?
あのツバサが言っていた事が思い返される、『君には戦う義務がある』と。俺は戦う為に生まれた、としたら当然・・・義務は生まれる訳だ。
「君達の誕生後、研究員の一人が道徳的に人間を作るこの計画に反発、一人の少年を逃がした・・・それが君、夜霧シュウ。顔の傷はシリンダーを割った時に付いたらしい。研究員は君を友人に預けた。その友人が夜霧竜二と麻衣。交通事故で若くして亡くなった君の両親だよ」
「何で、その話を俺にした・・・聞きたくなんかない!!」
「真実だからだ」
「・・・えっ?」
「君は目を背けようとしている。この地球に迫る危機も、自分の事も。真実を直視した上で、決めるのは君だ。私は強要はしない」
「・・・」
「最後に一つだけ行っておく。首都に30体以上のヴォルヴが迫っている」
30体、あれが・・・30も・・・。
「今出撃できるストレイヴァーは君専用に開発されたSX-03Aだけだ。君が搭乗した威舞専用のSX-02Eは君が無理に乗ったことも含めて消耗が激しく、起動が不可能になってしまった。威舞に無理矢理乗ってもらうこともできるが」
「また威舞を戦わせるのか!?」
「では、死ぬのを待つか? 人がただ無残に殺されているのを、指を咥えて見ているか!?」
俺は・・・。
「威舞がいくか、君がいくか? 決めるのは君だ」
彼は去っていった。
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Episode.09「決意」
 
弓月総司令と会った後、俺はいつも通り学校に向かった。いや、自然と足が向かったと言った方が正しいだろう。決して行きたかったわけではない。だが、こんな非日常を知ってしまったから・・・自分が普通の高校生ではないことを知ってしまったからこそ・・・俺は“日常”を求めたんだと思う。
俺はこの日常にいたいと思っていた。出来るだけ長く、出来ることならずっと・・・。だが、そんな事は許されない。あっという間に授業は終わり、昼休みになった。
昼休み。あちこちで座席を向かい合わせるようにして弁当を食べる。俺は、夕莉の誘いを断った。屋上に向かったのは、深い意味がある訳じゃない。ただいろいろ考えていたらなんとなく空が見たくなった・・・それだけだった。本来は立ち入り禁止だが、大分前に鍵が壊されてからは生徒が自由に出入りする事が出来るようになった。無論、教師達は知らない。
古びた扉を開ける。既に先客がいた。
 
「威舞・・・」
 
無言で空を見ながらカロリーメイトをかじっている。俺は彼女に近づいた。
「毎日昼休みどこにいるのかと思ったら、こんなところにいたのか?」
俺の問いかけに頷く威舞。
「となり、いいか?」
威舞は口をもぐもぐ動かしながら首肯した。コンクリートがちょうど椅子ぐらいの高さになっているところに腰掛ける。
「おいしいか?」
彼女は首を振った。
「じゃあどうして食べてんだ?」
「これしかなかった」
俺は溜め息をつくと、自分の弁当を開く。小さい弁当の中にはぎっしりとおにぎりが詰まっていた。
「男が朝適当に作ったやつだから、塩味濃いかもしれないけど・・・」
俺はおにぎりを一つ、威舞の手にのせる。威舞は探るようにおにぎりを見た後、無言で口元へ持っていき、食べた。
「どうだ?」
俺の問いかけに
「・・・しょっぱい」
と一言。
「だよな。でも男の握り飯なんてそんなもんだぜ」
さらにもぐもぐする威舞。
「嫌だったら残してもいいんだぞ?」
威舞は首を振ってから、言った。
「しょっぱい、でもおいしい」
彼女は、僅かだったが笑ったように見えた。
 
空を見上げる。
透き通るように蒼かった。
 
「どうして屋上なんかにいたんだ?夕莉とかツバサとかと食べればいいのに」
「空、好きだから・・・」
威舞はおにぎりを食べ終えると、俺と同じように空を見上げた。
「・・・基地には、なかったから」
 
俺は、威舞に聞いた。
 
「ギター、弾きたいよな」
「うん」
彼女の眼が輝いて見えた。俺は立ち上がる。
「ドリーマーズのギター、よろしくな」
「シュウ・・・?」
威舞が疑問に思うような表情を浮かべたが、深く聞かれる前に俺は屋上を後にした。
 
教室に向かうと真っ先にツバサの席へ向かった。幸い、夕莉は他の女子と談笑している。
「おい、ツバサ」
「なんですか?」
教室ということもあり、彼は笑顔のままだ。
「俺を案内しろ。お前達のところに」
ツバサは無言で頷くと椅子から立ち上がり、そのまま教室を出た。彼に従うまま校門を出る。彼はおもむろに携帯電話を掛け始めた。すると即座に一台の黒塗りの車が到着する。
「乗ってください」
笑顔は消えている。これが彼の、戦う時の顔なのだろう。
「条件がある」
「・・・いいでしょう。なんですか?」
「明日の戦いの事、威舞に知らせるな。そしてお前はドラムを叩け」
「この緊急事態に? 聞いたでしょう、30体以上のヴォルヴが東京目指して進撃を開始しているんですよ!?」
「俺は、この平和を守りたいんだ。少なくとも、あいつらにはこの現実を、今は知ってほしくないんだ」
彼は黙った。そしてゆっくりと口を開く。
「威舞は、現実を知ってますよ」
「だったら、一度くらい夢ぐらい見させてやりたい」
俺は告げる。
 
「その為の、ドリーマーズだ」
 
「判りました。条件は飲みましょう」
俺は車に乗り込んだ。
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Episode.10「出撃・エクストレイヴァー」
 
5/9 13:07
AVSF基地についた俺はまず、制服に着替えさせられた。といっても、ジャケットのようなものを上から羽織るだけの簡素なもの。ツバサ曰く『学校の制服のままうろちょろされたら侵入者と間違えられかねないですから』との事だった。
車が入った場所を察するに、ここは関東周囲の山岳地帯の地下なのだろうが、とにかく広かった。迷路のように通路が入り組んでいる。『ここです』とツバサに指示されるままに、あるドアの前にたどりつく。ツバサが持っていたカードを近くの機器に翳す事でドアが開いた。
「ここから先は、僕ではなく影沢さんに案内してもらいます」
「えっ?」
「バンドに残れと言ったのは君ですよ? 学校から2人同時にいなくなるのは都合が悪いですから」
そういうと、入ってきたドアから去ろうとするツバサ。
「なぁ、ツバサ」
「?」
「・・・ありがとう」
俺の感謝の言葉を聞いたツバサは、胸に右拳をあてるような格好を取った。
「それは?」
「アブサフは軍隊ではありません。だから敬礼はしないんです。そのかわり、こうして相手に敬意を払ったり、幸運を祈ったりするときは左胸に拳をあてるんです」
俺は、ツバサと同じように拳を胸にあてる。
「ご武運を」
「ああ」
ツバサは去っていった。ツバサが去ってから数分後、1人の女性がやってくる。
「影沢薫だ」
ツバサが案内してくれると言っていた人だろう。
「夜霧シュウです」
「これから君の乗る機体について説明する。明日の出撃まで時間がない。ついて来い」
「はい」
綺麗な人だと思った。長い黒髪に、鋭い切れ長の瞳。女性でありながら武士・・・そんなイメージだ。日本刀とか似合うかもしれない。
彼女は入ってきたドアとは違う対角線上にある別のドアにあのカードを翳した。どうやらこの部屋は通路の一部なようだ。ドアが開く。
「行くぞ」
「は、はい」
何かの小説で『トンネルを抜けると、そこは雪国だった』という有名な一節がある。俺の場合、『ドアの向こうには、ロボットがいた』という表現が正しいのだろうか?
一体や二体ではない。十何体というロボットが修理をされている。自分と同じジャケットを羽織ったAVSFのメカニックと思おしき人々が急がしそうに走り回っていた。
奥へ奥へと進んでいく。
ドック内にある殆どの機体が、こないだ搭乗したストレイヴァーとは違い、粒子を放出するリングを持っていなかった。形状もこないだの機体が流線型だったのに対して角ばった形をしている。色も銀と紫ではなく、銀と黒だった。
「これはSM-06エムストレイヴァー“甲”。SH計画対応者にしか操れないエクストレイヴァーから特殊装備を外したもので、いわいる量産型というものになる。日本には現在10体ほどだが、世界中で量産化が進行中だ」
影沢さんは歩きながらいくつか説明をしてくれた。やがて、紫と銀の先日の機体が現れる。
SX-02Eエクストレイヴァー“剣”。SH計画対応のエクスシリーズの二号機で、タイプE・・・弓月威舞専用機になる」
「あの、その隣の機体は?」
その隣にはほぼ同一の形状ながら腕部が大型化された機体があった。色は黒地に赤ラインという少し禍々しいものである。
SX-01エクストレイヴァー“拳”。エクスシリーズ一号機で、パイロットの不在から現在は起動が凍結されている」
「パイロットの不在、か・・・」
更に奥へと進むと、ドックの突き当たりに2体の巨大神が姿を現す。銀と緑の機体と、銀と赤の機体。銀と赤の機体には機体のあちこちに制御翼のようなものも見える。この2体は、ドック内でも一際目立っている。作業にかかわっているメカニックの人数が多いせいあろうか?
「緑と銀の機体が、SX-03Aエクストレイヴァー“刃”。赤と銀の機体がSXW-04A/Eウィングストレイヴァー“翔”」
A/E・・・?」
「開発段階では君と威舞、どちらが乗るか決定していなかった為だ。航空機形態に変形する事で高い機動力、人型形態に変形する事で高い攻撃力を実現しているが、パイロット1人への負担があまりも大きく完成にはいたっていない」
俺は銀と赤の機体を見つめた。まるでパイロットを選ぶかの様な面持ちでこちらを見つめている。
「君に乗ってもらうのはそれではなく、こちらのSX-04Aだ。もともとこれはタイプAである君専用に開発された」
「俺の為に?」
「弓月総司令の下、前回のSX-03Eでの君の戦闘データをもとに改修が進められている。両脚部と両肩部にブースター兼20連ミサイルポッドが装着され、機動力と攻撃力が大幅に向上された」
よく見ると、前回の機体とは違い、足と肩など機体の各部分に大型の黒いパーツが装着されている。
「その分扱いにくいかもしれないが」
「大丈夫です」
「?」
何となくだが、俺はこっちの方が性に合っている気がした。
「攻撃力、上げてください。あのヴォルヴって化け物を30体も相手にしなきゃいけないんですよね? それぐらいないと」
「君は戦術パターンを理解したようだな」
「はい。まずミサイルで頭数を減らす。混戦になったらミサイルポッドは分離して、前回と同じ剣による戦闘に移る・・・ってことですか」
影沢さんは少し驚いているようだった。俺が作戦をここまで想定したことに。
俺自身驚いているが、分かってしまうんだから仕方ない。俺は改めて、自分が作られたことを強く意識した。
 
16:00
影沢さんと共に次に向かったのは、会議室。ブリーフィングルームと呼ばれる場所だった。
自動ドアが開くと、既に二人の男が待機している。一人は、先日の弓月総司令という男。白衣を纏っているもう一人は初対面だった。
「暮乃祐司だ」
短く自分の名を告げた白衣の男は、そそくさと席に座った。中は、意外とシンプルである。全面ガラス張りの窓からは先程のドックにならぶストレイヴァーが一望出来るようになっていた。
「時間がない、説明を始める」
暮乃は手元にあるパソコンを操作しはじめる。すると、ルーム内の中の電気が薄暗くなり、円卓の中央に3Dのあの怪物・・・ヴォルヴの姿が表示された。説明は30分間。主にヴォルヴの習性と、それを利用した今回の作戦についての説明だ。
数十分が過ぎただろうか?説明が終了し、ルーム内に再び明かりがともる。
「以上で、今回のブリーフィングの終了とする」
そう告げると、暮乃は席を立った。
「今は説明したヴォルヴやストレイヴァーの内容は全体の一部分に過ぎない。君がタイプAとしての使命に気づき、もっと早くから我々に協力してくれれば・・・綿密なブリーフィングが出来たんだがな」
俺はわかっていた。このルーム内に入った時から、彼の眼を見た時から・・・この暮乃という学者は俺をモノとしか考えていないのだ。タイプAという兵器だと。
俺には耐えられなかった。
「そうやって・・・威舞を兵器としか育てて来なかったんですね」
「君達は人類の為に生み出されたんだ。我々はその使命の為に君達を育てた、それだけだ」
「それでも、俺も威舞も人間だ・・・。俺は人間として、人間を守る」
俺の言葉など聞かないようにするかのように、暮乃はブリーフィングルームから去っていった。
 
「すまないな、暮乃も悪気があるわけじゃない。彼は彼なりに人類の未来を考えている」
「・・・」
俺は黙って再び席についた。
「少し、席を外してくれないか?」
弓月総司令は影沢さんにそう告げた。影沢さんは頷くと、ルームを後にする。
 
俺と弓月総司令だけが残った。
 
19:00
総司令と話した後、特に行く場所も無い俺はストレイヴァーのドックの前に来ていた。当然のように横には影沢さんがいる。どうやら彼女は案内役であると同時に、俺が勝手な事をしないように見張りの役割も果たしているようだ。
下から見上げると、その巨大さがよくわかる。
「怖いか? 戦うことが」
影沢さんが聞いてきた。
「・・・はい」
ここでカッコつけて、見栄をはっても仕方がない。
「・・・君は戦う事を望んではいない。そんな者を無理矢理戦わせるのは、仕方ないとはいえ気が引ける」
「無理矢理ではありません」
俺は影沢さんの目を見て言った。
「自分で決めたんです。戦うって」
彼女は数秒黙った後
「・・・そうか」
と呟いた。
 
5/10 9:58
翌日。早朝。突然基地内のサイレンがけたたましいアラーム音と共に回り始める。ヴォルヴの接近を告げるワーニングランプだ。
『ヴォルヴ東京湾内に侵入を確認。SX-03A出撃準備』
オペレーターの声に、俺は拳を握り締める。俺は既に特殊なパイロットスーツに着替え、出撃準備を整えていた。
「俺、行きます」
その言葉に、影沢さんは強く頷いた。
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 Episode.11「アダム」
 
 
NE49/5/10 10:15
戦闘ポイントに移送する為、エクストレイヴァーは巨大な輸送船デルタキャリアーに積み込まれる。出撃のシークエンス上、俺はエクストレイヴァーに搭乗したままの輸送になる。
コックピットにオペレーターの声が届く。
『ポイントに到着した』
この声は影沢さんだ。
『夜霧。エクストレイヴァー発進を許可する。拘束具解除』
エクストレイヴァーの両肩を固定していた拘束具が外される。と同時にカタパルトに接続されるエクストレイヴァー。
『エクストレイヴァーに発進システムを移譲。いつでも行けるぞ、夜霧』
「了解」
俺は息を吸い込んだ。カタパルトの向こう側には怖いくらいの青空が広がっている。この向こう側に・・・きっと奴らはいるんだ。
俺が、止めてみせる。アイツの、夢の分まで。
 
「夜霧シュウ! SX-03Aエクストレイヴァー、行きますっ!!」
 
 
カタパルトによって加速され、射出される機体。エクストレイヴァーは、戦場へと吐き出された。デルタキャリアーから吐き出されたストレイヴァーは、東京の湾岸地帯に着陸した。あたりには人影はいない。不気味な程に静かだった。湾岸地帯から1キロは、アブサフの“不発弾”という情報で無人地帯となっている。だが、そこから先は別だった。人が平和を紡いでいる・・・いつも通りの時間が流れている場所がある。誰かに何かを伝えるためのバンドが、今まさに発表を行おうとしているはずだった。発表までに沢山の練習を積んできた。
今日、皆とライヴをすること。それがあいつの夢なんだ。
「だから・・・」
けたたましい警報音がコックピット内に鳴り響く。
「来たかっ」
海から巨大を揺らしながら姿を現した蜘蛛のような生物・・・ヴォルヴ。
「くらえっ」
俺の声と同時にストレイヴァーは上空へと跳躍すると全身の強化ポッドから小型ミサイルを吐き出した。上陸してくるヴォルヴらを一掃する。
「やったか!?」
ヴォルヴはその強化された鋼鉄の皮膚を損傷した程度でこちらへ向かってくる。
その数・・・10体以上。しかも、海から上がってくるヴォルヴの数は減ることは無かった。情報は30体“以上”。と言うことはどれほどの数がいるのか判ったものではないということだ。
俺はシステムを起動させた。
「ストレイヴァードライブッ!」
機体から緑の粒子が放出される。軽くなった機体をヴォルヴに向けて疾駆させた。
「うぉぉっ」
左腰から斬馬刀の如き巨大な剣“ブレードディバイダー”を引き抜き、ヴォルヴ達を切り裂く。
「なるほど・・・」
影沢さんがブリーフィング時に言っていた『ミサイルは有効』の意味を理解した。ヴォルヴを一撃で撃破する事は出来ないものの、外装を弱体化させることで剣で斬りやすくなっているのだ。これなら、前回のようにエネルギーを剣に一点集中させずとも連続で敵を断ち切る事が出来る。
「行くぞ・・・ヴォルヴ!!」
俺は・・・ストレイヴァーは剣を構えた。
 
10:32
一方、学校ではちょっとした問題が起きていた。体育館の舞台裏。今は演劇部がショートショートの劇を発表している。もうすぐドリーマーズの発表と言う時だった。
「えー! シュウ来れないの!?」
夕莉は大焦りだった。それもそのはず、折角のバンド発表の本番なのにもかかわらずシュウがいないからだ。事情を知っているツバサは、周りを(主に夕莉)落ち着かせる事で必死だった。
「どうしていないのよ! というか、何でツバサしか来れないってことを聞いてないのよ!」
「いや、朝突然メールで来れないと聞いたと言いますか・・・なんというか・・・」
やはり、ツバサは嘘つくのが苦手なのである。
「とにかくギターどうするのよ!?」
夕莉は焦りに焦っている。ここまで必死に練習してきたのだ。最近ではシュウの調子も戻ってきて、いい発表が出来ると彼女は考えていたのだ。それなのに・・・
「私は・・・シュウと一緒にライヴがやりたいの!!」
 
10:35
一方、上空から戦闘を確認しているデルタキャリアー内。指令室内のモニターには俺が倒したヴォルヴの数が表示されている。その横には、ヴォルヴに対して獅子奮迅の勢いでブレードディバイダーを振るい続けるストレイヴァーの姿が移しだされた。
SX-03A13体目を撃破!」
オペレーターの言葉に、暮乃は驚きの色を露わにする。
10分で13体のヴォルヴを撃破・・・?タイプEですら、シュミレーターで出した事のない記録を、実戦で!?」
弓月総司令は、暮乃に対して口を開く。
「何故だか判るか?」
「・・・」
「彼はタイプAであることを認めた。しかし、人間である事も捨てなかった」
「・・・どういう意味です?」
弓月総司令は胸に拳を当てる。
「心・・・だよ」
 
10:40
俺は有利に戦闘を展開していた。まだヴォルヴの数は減らないが、確実に俺の勢いに押されてきている。
「あと少し・・・行ける!」
だが、トリガーを押してもミサイルが打ち出されない。
「何?」
コンソールには
≪ミサイル斬弾数 ゼロ≫
の文字が表示されている。くそっ、戦闘に集中しすぎてそこまで意識が回らなかった。その後
≪ミサイルユニットパージ推奨≫
とコンソールに表示される。一瞬の思考の後、俺は首を振った。
「パージはしない。ポッドの後部にはブースターが接続されている」
≪操縦者意図推測不可≫
「ミサイル分の重さが減ったんだ。ここから先はブースターを使った高機動戦闘が展開できるってことだよ! ストレイヴァードライヴ!」
再度気合いを入れる意味も込めて、粒子放出を促すコードを叫ぶ。機体各所から放出される緑色の粒子=ストレイヴ・エナジー。ブースターも相まって、信じられないような加速速度を叩きだした。湾岸地帯の工場群を縫うようにしてヴォルヴ達を切り裂いていく。
「俺は戦闘に集中する。AIに機体姿勢制御は任せる」
≪了解≫
俺はエクストレイヴァーの左手に機体背部に装備させていた100mm速射マシンライフルを装備させた。左手のライフルで牽制しつつ、右手のブレードで相手を断ち切っていく。
「よし!」
蜘蛛型のヴォルヴ、最後の一体を斬り捨てた。・・・その時だった。
ものすごい音を立てながら、海から巨大なものが姿を現す。亀のような甲羅を持ち、他のヴォルヴと同様に獰猛なサメのような牙を持つ。四本足を持ち、まるで宙に浮くようにして進む。何より大きさが信じられなかった。100m近くはあるだろうか・・・?
「何だよ、あれは!? デルタキャリアー!?」
指令室に情報を求めた。影沢さんの声が帰ってくる。
V2F・・・要塞型、フォートレスタイプのヴォルヴだ』
「何だよ、それ」
『私も情報でしかしらない。蜘蛛型のヴォルヴがV1S、その上位種と聞いているが・・・まさか、既に地球に侵入していたのか・・・』
「くっ・・・」
想定外って事かよ! 俺は操縦桿を握りしめた。V2Fと呼ばれる亀形のヴォルヴは、蜘蛛型のヴォルヴが小型に思えるほどの巨大な大きさだった。迫る巨大ヴォルヴ。そしてそのまま、俺の乗るエクスストレイヴァーに体当たりしてきた。
「・・・ぐわっ!」
吹き飛ばされるエクストレイヴァー。必死の姿勢制御もむなしく、臨海工場地帯を越えて市街地へ飛ばされてしまった。不時着した場所は、一般の人々が暮らす市街地。幸い、この地域は避難が完了している場所だがここを超えれば・・・まだ人がいる住宅街にたどりついてしまう。
「ちっ! デルタキャリアー、聞こえますか! E-57ライン以降の地域も避難を開始させてください!」
『こちらデルタキャリアー』
その声は影沢さんではなく、弓月総司令のものだった。
『現在、政府に要請したもののパニックは避けたいとの考えから、要請を拒否されている。持ちこたえられるか』
平和ボケした政府高官か。こっちには人の命がかかっているって言うのに!
「なんとかならないんですか! 人命が掛ってるんですよ!」
『現在、暮乃が交渉に尽力している。それまで持ちこたえるんだ!』
暮乃さんが・・・?
「・・・了解。E-56を最終防衛ラインとすれば良いのですね」
俺は操縦桿を握りしめる。
よくよく考えてみれば、もしここで避難をさせたらライヴは中止になっちまう。弱気になっていた。俺がここを守ればいい。それで、いいんだ。
俺は目の前の化け物級の巨大ヴォルヴを見つめた。
「・・・さぁて、ここからが・・・本当の勝負だぜ!!」
 
10:40
涙ぐみながら夕莉は叫んでいた。
「せっかく、今までシュウと一緒に練習してきたのに・・・どうして? どうして一緒に出来ないの!?」
エイジはそんな彼女を必死に説得しようとしている。
「いないんだ。しかたがない・・・落ち着け!」
「でも!」
「シュウと一緒に出たかったって言う気持ちは判る。でも、あいつは今ここにはいないんだ」
「どうして・・・どうしていないのよ」
ツバサは、2人を見ていたゆっくりと口を開いた。
「たぶん・・・」
彼の言動に、バンドメンバー全員が注目する。
「僕に今日来れないことを言ったのは、僕が仲間になって日が浅かったからだと思います。他の仲間に言うよりかは、辛くなかったったんだと思います。でも、これだけは言えます! 今シュウさんはみんなの為に・・・頑張っているんです! 場所は離れていても、同じ夢を追っているんです! だから、やりましょう! ライヴを、成功させましょう」
ツバサの言葉を受け、エイジはゆっくりと威舞に近づいた。
「威舞、ギター行けるな?」
その言葉に、夕莉はエイジ食いつく。
「なんで? シュウがギターなの・・・どうして・・・」
「落ち着け! 夕莉!」
エイジがこんな風に怒鳴るのは、滅多にないことだった。その迫力に、夕莉はたじろぐ。
「さっきのツバサの話、聞いてなかったのか? あいつは、俺達の事考えた上で・・・たぶん、どこかで頑張ってるんだよ。分かってるはずだ、シュウが・・・中途半端な気持ちで大事なライヴをすっぽかすようなやつじゃないことくらい! シュウとずっと一緒だった夕莉が一番良く分かってるはずだ」
「でも・・・」
「俺は・・・シュウが今どこで何をしてるかなんてわからない。でもな、あいつはきっと、此処と同じくらい大切なものの為に必死に頑張ってるんだよ!」
「どうしてそんな風に判るの?」
「勘だ。悪いか?」
夕莉は黙ってしまった。
「お前も判るだろう? うまく言葉に出来ないけど、シュウが今頑張ってること」
「・・・うん」
「それがきっと、ツバサが言ってた・・・場所は違っても同じ夢を追いかけてるってことなんだよ」
ツバサは頷いた。
「シュウはたぶん分かってたんだ。何となくかもしれないけど、今日此処に来れないことを。だから威舞にあそこまで熱心にギターを教えていたんだと思う」
「・・・」
エイジは威舞に聞いた。
「シュウの分まで、やれるな?」
威舞は頷いた。威舞に最もかかわりが深いツバサの眼から見て、彼女がここまで強く物事を肯定するのを見るのは初めてだった。
「夕莉も、いけるな?」
夕莉は涙を拭いた。
「・・・私達、ドリーマーズだもんね。夢、持たなきゃね!」
夕莉の顔に笑顔が戻る。
客席の方で拍手が起こる。前の発表が終わったようだ。
『演劇部のみなさんありがとうございました。次は軽音部。ドリーマーズの皆さんです』
エイジは仲間の顔を一人一人見ていった。夕莉、ツバサ、威舞。・・・そしてここにはいない、大切な仲間・・・シュウ。
「夢を追い、夢を与え、夢を響かせるバンド! それが俺達ドリーマーズだ!」
4人と5つの魂は、ステージへ上がった。
 
10:45
エクストレイヴァーはマシンライフルを連射しながら、ブレードを構えて跳躍し、そのまま亀の甲羅を斬り付けた。
「とぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!!!」
だが、その硬い甲羅に傷一つ付けることは出来なかった。甲羅近くのプリズムの様な部位から、光の光線が放たれる。ライフルを持っていた左腕が断ち切られた。
「うっ!!」
激痛が左腕に走る。神経を繋げてスムーズな操縦を可能としているエクストレイヴァー。その分、ダメージも70%ほどは軽減されず操縦者に与えられると聞いた。感覚的には左腕がない。
再び市街地へと堕ちる、銀色のロボット。
「・・・死ぬのか・・・俺は・・・」
敵の猛攻に押され続けるストレイヴァーの中で、俺はブリーフィングルームで弓月総司令と交わした会話を思い返していた。
 
5/9 16:37
「あなたは知っていたんですよね?威舞がどんな風に育てられて来たのか!?」
弓月は溜め息をついた。
「威舞はアブサフのロシア研究所で生まれた。SH計画第二段階の提案者、ベリティアス博士によって生み出されて・・・ストレイヴァーパイロットになるべく育てられた」
「ロシアで、戦うだけの訓練をされ続けて、大事な事を何も威舞は教わらなかった・・・家族も、友達も・・・何も」
確かに、俺は家族はいない。だけど家族同然の暖かい関係がそこにはあった。夕莉の両親はまるで実の息子のように俺に接してくれた。
だが威舞は知らないのだ。大切なものを。
「俺は威舞が暖かく育てられていると考えていた」
そう言った弓月に俺は腹がたった。何故そんな苦し紛れの言い訳をするんだ。
「どうしてそんな風に思えるんですか!?」
「威舞は、育ての親であるベスティアス博士の娘だからだ・・・」
「えっ」
「最初のストレイヴァーが発掘された時の当時の二人のパイロットのゲノム体情報・・・アダムとイブと名付けられたその遺伝子。威舞は、ベスティアス夫妻の遺伝子と、イブの遺伝子を掛け合わせて誕生日している。だから、威舞は生物学的にもベスティアス博士の娘なんだよ」
「・・・じゃ、博士は・・・自分の娘に戦う事しか教えなかったんですか!?どうして!?」
「・・・怖かったそうだ。化け物のような遺伝子を組み込まれた自分の娘が・・・最期にそう彼は言い残した」
「最期?」
「彼は一年前に病死したよ。だから威舞は、博士の助手である暮乃と共にここへ来た。タイプEではなく『威舞』という漢字を与えたのも、『弓月』性を名乗らせたのも、ここで私と出会った後だ」
 
じゃあ・・・威舞は・・・。
すぐそばに、血の繋がった父親が居たのに・・・その父親に恐れられながら、戦う為だけに育って来たのか?
 
そんなこと・・・。
 
「俺は・・・」
「?」
「俺も威舞と同じように、両親がいたんですか?」
「・・・いたが、死んだよ。ストレイヴァーでの実験中に」
「やっぱり、俺を恐れていたんですか?」
「・・・わからない」
俺は立ち上がり、ルームを出ようとする。
「君は」
弓月の言葉に足を止める。
「・・・シュウ君はどうしてここへ来たんだ?」
俺は振り返った。自分の拳を心へと押し当てながら、弓月を見つめる。
 
「俺は、アダムですから」
 
5/10 10:47
俺はエクストレイヴァーの中に居る。
そう・・・俺は戦う為に生まれた。その使命を忘れて、ずっと威舞に戦わせてきたんだ、辛い思いをさせてきたんだ。だから・・・あいつの初めてのライヴくらい・・・夢くらい守りたい。
守りたいんだ。
「エクストレイヴァー。戦えるか?」
≪肯定≫
「エクストレイヴァー。俺に力を貸してくれるか?」
≪肯定≫
「エクストレイヴァー。俺達は勝てるか?」
≪肯定≫
俺は笑った。
「全肯定だな」
≪勝率、3%以下。ゼロではない。勝率有認識≫
「・・・よし、勝ちに行くぞ」
≪了解≫
 
STRIGVER 第一章 威舞〜EVE〜
バトルイメージテーマ
GRANRODEO/Go For it!

(
YouTube)
 
やっぱり、負けられねぇ・・・!!
「たぁぁぁっ!!」
何度もジャンプし、巨大なヴォルヴを斬りつける。紅いプリズム上から光の光線が発せられるビーム攻撃をギリギリのところでかわしつつ、上空を浮かんでいるヴォルヴに向かっていった。
「前だけを向いて進め、がむしゃらになって戦え。勝ち取れるまで」
浮かんできた歌詞。エイジが好きなGRANRODEOGo for it!という曲だ。
「・・・どうしても奪いたいなら、最後まで諦めるな・・・!」
エイジの歌声が、頭に響いてくる。そして楽器を持つメンバーの姿も浮かんでくる。ベースの夕莉も、ドラムスのツバサも、そしてギターの威舞も。
威舞は確かにいつものように無表情だが、その瞳の奥に笑顔が見える。そんな気がした。初めての音楽、初めての学校、そして初めての仲間たち。彼女にとってそれがどれほど大切なものか・・・。
守るんだ、俺は。その大切な者達を。彼女の夢を!
「・・・仲間の想い、一つになる・・・!!」
俺はエクストレイヴァーを跳躍させ、牙突のようにブレードディヴァイダーを構えた。
 
「ストレイヴエナジー! ドライヴアップっ!」
 
光粒子が剣先へと充填されていく。輝く刃、光る双眸。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
諦めねぇ!!
こいつを、倒す!!
みんなの・・・威舞の・・・夢の為に・・・!!
 
10:48
エイジはGo For itの一番のサビを歌い切る。二番のAメロに移ろうとした、その時だった。ギターを操る威舞の手が止まったのだ。
「シュウ・・・」
威舞を言い知れない感覚が包み込む。
「どうした、威舞?」
エイジの質問に返事すらせず、威舞がギターを置くとどこかへ走り去った。
「威舞!」
「威舞ちゃん!」
エイジと夕莉が後追おうとした時だった。
「おい、すぐ近くで巨大なロボットが、もっと巨大な化け物と戦ってるぞ!」
生徒の一人が大声を出して、騒ぎ始める。釣られるようにして他の生徒も体育館の出入り口の方に殺到し、外の様子を見ようとする。
ツバサはハッとした。まさか、威舞は気がついたのか・・・? シュウが戦っているという事に。
「・・・そんな」
ツバサは外へ飛び出した生徒達につられるように外へ出る。エイジや夕莉も体育館の外へ飛び出した。そこに広がる光景は驚くべきものだった。巨大な人型のロボットが亀のような巨大な化け物と戦ってるのだ。
「やはり威舞はシュウに気づいたんだ・・・」
「えっ」
ツバサは先生の下に駆け寄ると、『生徒達を避難させてください!』と言い残し、威舞と同じようにどこかへ走り去ってしまった。ツバサの言葉に、エイジと夕莉は疑問に思った。『やはり威舞はシュウに気づいたんだ・・・』と言う言葉。そして、このロボット騒ぎの前に前に走り去った威舞・・・。
「まさか・・・!」
エイジは、左腕を失しないながらも必死に戦っている銀色のロボットを見つめた。
 
10:49
「くっ!」
渾身のドライブアップ技と、敵の紅い光線が激突する。
「・・・ぐわっ!」
力負けした。敵のエネルギー質量に、ストレイヴエナジーの出力が追い付かなかったのだ。しかし、エクストレイヴァーは吹き飛ばされつつも次の攻撃に移る。紅い光線を避けながら必死の斬撃を加えるエクストレイヴァー。だが状況は悪化していく一方だった。押されている。このままでは・・・
E-56防衛ライン突破』
「くそっ!!」
住宅街に入ってしまった。俺は焦り、押し返す為に再び攻撃に移ろうと跳躍した時だった。巨大ヴォルヴのプリズムから放たれた光線の一つが、エクストレイヴァーの右脚部に命中した。右脚部が融解し、エクストレイヴァーは戦闘不能状態となってしまう。
「墜落する・・・!」
民家を避けて着陸した場所・・・学校の校庭だった。自分の高校である。沢山の生徒がこのロボットを見ていたが、危険を感じたのか蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。俺は歯ぎしりする。
「守れなかった・・・のか!? あいつの夢を・・・」
逃げ惑う生徒たち。しかし、逃げない二人の生徒の姿が後部モニターに表示された。あれは・・・
「エイジ! 夕莉!!」
紅い光がこちらを見つめている。二人が危ない!
「おぉぉぉぉっ!!!」
ブレードを盾にするようにして、二人を守る。
「粒子最大展開!」
≪了解≫
エクストレイヴァーの装甲が砕けていく。光線が止まったとき、エクストレイヴァーの装甲はボロボロだった。操縦桿を動かしても、意識を込めても、機体が全く動かない。
「どうした! エクストレイヴァー! 勝ちに行くんだろう!? 守るんだろう!?」
≪肯定≫
「俺が死ぬのは構わない! でも・・・ここで俺が倒れたら・・・仲間たちが・・・みんなが・・・!」
≪機体損傷率87% 再起動不可≫
それがコンソールに表示された最後の言葉だった。エクストレイヴァーの各所から光の粒子が消えていく。
「くそっ・・・」
俺はシート裏に用意されていた緊急用のライフルを手に機体の外へ飛び出した。俺の姿を見た夕莉とエイジは驚きの声を上げる。
「「シュウ!」」
「2人とも逃げろ!!」
俺はライフルを構え、2人とはグラウンドの反対側へ走る。走りながら化け物級の巨大ヴォルヴに向かってライフルのトリガーを引いた。ダメージ与える事など期待できないが、注意をそらす事は出来る。あの光線をエイジと夕莉にさえ向けなければそれでいい。
光線は予想通り、俺に向けて発射された。走りながら何とかそれをかいくぐる。光線は校庭の地面を抉っていく。やがて、その抉った地面の爆発に俺は巻き込まれてしまった。
「うわぁぁぁっ!」
宙を舞う俺の身体。身動きが取れない。何とかライフルをヴォルヴに向けて撃つ。だが、あざ笑うかのようにヴォルヴは俺に向けて光線の発射態勢を取った。紅い光が蓄積されていく。
「・・・くっ」
硬く眼を閉じた俺は、死を覚悟していた。
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Episode.12「イヴ」
 
宙を舞う俺の身体。身動きが取れない。何とかライフルをヴォルヴに向けて撃つ。だが、あざ笑うかのようにヴォルヴは俺に向けて光線の発射態勢を取った。紅い光が蓄積されていく。
「・・・くっ」
硬く眼を閉じた俺は、死を覚悟していた。
 
だが・・・。
 
痛みは一向に訪れなかった。代わりに、身体が浮く感覚と風を感じる。これが死ぬ、天国へ旅立ったという感覚なのだろうか。
「シュウ・・・! シュウ・・・!」
俺を遠くから呼んでいる声がする。事故で死んだ父さんと母さんか? いや、それとも血が繋がっている本当の父さんと母さんなのか? もうすぐ、話に聞く天の川ってやつが見えるのだろうか?
「・・・シュウ!」
違う、この声は!!
俺はゆっくりと瞼を開いた。視界に入ったのは俺を掴んでいる真紅のストレイヴァー、確かSXW-04A/Eウィングストレイヴァー・・・。機体のコックピットには
「威舞!」
威舞が操縦桿を握りしめている。
 
真紅のストレイヴァーは空を羽ばたいていた。
「乗って」
彼女は機体の腕を胸部コックピットの方に動かした。キャノピーが開き、俺を中へと収容する。
「どうして・・・」
「助けにきた」
彼女の瞳は、あの巨大な亀形のヴォルヴを見つめていた。だが、どうにも威舞の様子がおかしい。額の汗は半端ない量だし、息も上がっている。
俺は影沢さんの言葉を思い出した。『航空機形態に変形する事で高い機動力、人型形態に変形する事で高い攻撃力を実現しているが、パイロット1人への負担があまりも大きく完成にはいたっていない』と。その高い負担を威舞は背負っているのだ。
負担を減らすために、今まで背負ってきたものの為にも俺が出撃したのに、こうして助けられてしまった。俺はそのことが悔しかった。
「ヴォルヴを倒す」
そう言うと威舞は操縦桿を再び握りしめなおした。俺は狭いコックピット内で、自分の位置を変える。彼女の背中側から操縦桿に手を伸ばした。威舞と俺の手が重なる。
「シュウ?」
「俺は攻撃に専念する。威舞は機体操縦や回避を担当して」
「了解」
彼女は頷いた。
「行くぞ・・・」
 
「「ストレイヴァー! ドライヴ!」」
 
機体各所から紅の粒子が放出される。
俺達の機体、ウィングストレイヴァーは一直線に巨大なヴォルヴにに向かっていった。敵のプリズムから幾度となく苦しめられた光線が放たれる。
「危ない!」
この距離じゃ、回避しきれない! 俺はとっさに歯を食いしばった。
だが・・・
「ストレイヴァー ファイターモード」
威舞から発せられた言葉。次の瞬間
「変形した!?」
ウィングストレイヴァーはまるでジェット戦闘機のような飛行形態に変形している。
「これが、ウィングストレイヴァー」
威舞は変形させた機体で敵の光線をかいくぐっていく。その様子はまるでサーカスを想起させる。俺はあまりの高機動戦闘にただ驚くばかりで。
「シュウ、攻撃。コードはバトルモード」
「了解!」
ウィングストレイヴァーは敵の攻撃を掻い潜りながら、その一瞬の隙を探す。攻撃と攻撃の合間、光線が届かない死角。刹那、そのチャンスを威舞は掴み取った。
「今」
俺は叫んだ。
「ストレイヴァー! バトルモード!」
人型形態に一瞬にして変形するウィングストレイヴァー。
「うぉぉぉぉっ!!」
俺は手にした操縦桿のトリガーを引く。連動してウィングストレイヴァーのライフルから光条が放たれた。
「まさか、ビーム兵器?」
「そう」
真紅のビームの光は圧倒的な威力で、敵の甲羅を貫いた。実弾兵器が全く通用しなかったあの装甲を一撃で・・・圧倒的な威力に俺は開いた口がふさがらなかった。大きく姿勢を崩す巨大ヴォルヴ。だが、なおも俺達を撃ち落とそうと光線の連射を止めることはなかった。威舞は回避機動を取り続け、次なる攻撃のチャンスを俺に与えようとする。
「・・・すまないな」
俺は威舞に話かけた。
「威舞にもう戦わせない為に、俺はストレイヴァーに乗ったのに・・・ライヴ、守れなかった」
「だいじょうぶ」
彼女は俺の前に座ってるような状態なので表情は見えない。でも
「また、やればいい。今度は、シュウも一緒に」
威舞の声は少しだけ楽しそうだった。
「それに・・・コックピットに、もう一人きりじゃないから」
その言葉に、俺は操縦桿を握る威舞の手を改めて強く握った。
「ああ。威舞はもう、一人じゃない」
光線を放ち続ける巨大ヴォルヴ。俺達の視線は倒すべき一つの目標に集中する。
「終わらせる!」
俺の言葉に、威舞は強く頷いた。
「うん」
俺は剣を出力させるイメージを頭の中で浮かべる。すると、腰部から光の剣が引き抜かれ手中に装備される。ビームによって生成された剣・・・“ビームブレード”と言ったところか。
「はぁぁぁっ!!」
威舞の操縦にタイミングを合わせ、剣を振るう。巨大ヴォルヴの装甲に光の刃が突き立てられる。亀のような甲羅の形状の装甲は崩壊寸前だった。
「トドメ、行くぞ! 威舞」
「うん」
 
「「ストレイヴエナジー! ドライヴアップ!!」」
 
全身から真紅の光を放出する。機体が熱い、コックピットも・・・エネルギーが満ち溢れてきている。
「「はぁぁぁぁぁっ!!」」
ファイターモード=戦闘機形態に変形したウィングストレイヴァーはドリルのように機体を回転させながらヴォルヴの巨体を貫く。
「いっけぇぇぇぇぇっ!!」
 
突き抜けたストレイヴァー。俺達は動体に大穴をぶち開けたヴォルヴを見つめる。
「やったか!?」
紅い光を放ちながらヴォルヴの巨体は爆砕した。
「・・・勝った」
威舞は俺の方を振り返った。
「シュウ、かったよ」
俺は頷く。
「ああ。勝ったんだ」
俺の声に安心したのか、威舞の瞼はゆっくりと閉じていった。すやすやと聞こえてくる寝息。眠ってしまったようだった。無理もない、人型から戦闘機形態に変形し、おまけにビーム兵器を積んでいるこのバケモノのような機体をAIの補助も使わず1人で操縦していたのだから。
「おやすみ」
俺は威舞にそう呟いた。そして、ありがとう・・・。威舞が来なかったら、俺は死んでいた。
ストレイヴァーを校庭にいったん着陸させる。校舎も、この街もボロボロだった。戦闘の傷跡は大きい。
『聞こえるか? 威舞』
影沢さんからの通信だ。
「はい。こちら夜霧シュウです」
『夜霧・・・ではやはり威舞は夜霧を回収したんだな』
「はい」
『威舞は?』
「今は眠っています。この機体を1人で操縦したんで、無理はないかと」
『そうか。今、弓月総司令官と変わる』
弓月総司令の声がやがて聞こえてきた。
『ご苦労だった。町の損害は激しいが、奇跡的に死者はゼロだった。君は守ったんだ、この街を』
「俺一人の力じゃありません。威舞のおかげです」
『政府も今回の戦闘状況から眼をそらすわけもいかない。ヴォルヴの存在について、公表に踏み切るだろう』
「そうですか・・・」
『君は、どうする?』
「えっ」
『まだ宇宙には千体近いヴォルヴがこの地球を狙っていると言われている。君は、この後どうする?』
「俺は・・・」
瞳を閉じ俺の肩にもたれかかっている威舞。改めてみるとその肩の小ささが良く分かった。こうして寝ている彼女は、まるで小動物のようで。威舞一人にこれからの戦いを任せるのか・・・そんな事・・・
「戦います」
『そうか。君は君の意思で選んでいいんだぞ』
夕焼けがコックピットの中を照らす。
「アダムとしてではなく、夜霧シュウとしての決断です。兵器ではなく、1人の男として、俺は戦います」
『分かった。今からデルタキャリアーをそっちに下ろす。しばらく待機していてくれ』
「了解です」
通信が切れる。
暁の光に照らされる真紅の翼を持つ機体。このいつだったか血の色にしか見えなかったオレンジの光が、今は暖かみあるものに思えた。茜色に姿を変えていく街。俺はコックピットのキャノピーを開いた。風が吹き抜ける。
「う・・・ううん」
威舞は直に当たった風で、目を覚ましてしまったようだ。
「ごめん、起しちゃったな」
「だいじょうぶ」
威舞も、夕焼けを見つめた。
「きれい・・・」
「ああ」
 
終わった。
・・・そして、始まった。
 
STRIGVER 第一章 威舞〜EVE〜
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茅原実里/勇気の鼓動
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第一章完結。そして物語は第二章へ・・・。

<次回予告>
第二章 「破滅〜CATASTROPHE〜」

戦いを決意したシュウは・・・?

人のぬくもりを知らぬ威舞は・・・?

そして、世界各地に迫る大量のヴォルヴ。
新たなる戦いの幕が上がる。

感想もお待ちしています⇒真・夢限の英雄章
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!

 

 

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